大判例

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大阪地方裁判所 昭和21年(ハ)190号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(事實)

原告と(脱退)被告との間に昭和十九年四月十三日「原告は既に被告との間の本件建物賃貸借契約が終了したことを承認する。被告は昭和二十一年三月九日まで右建物の明渡を猶予する。原告は同日限り無条件で右建物を明渡す。」との調停が成立している。

原告は、「本件調停調書作成後昭和二十年に入つて空襲は全国的に激化し、右建物も屡々危殆に瀕したのを原告が隣組員と相協力して防火に努めた結果幸に事なきを得たのであつて、又終戦後の社会状態の激変殊に住宅拂底の甚しいことは公知の事実であり、斯ることは本件調停調書が作成せられた昭和十九年四月十三日当時においては当事者の全く予測し得なかつた事情の激変である。従つて之を無視して本件調停条項を楯に家屋明渡の執行を爲すことは不当であり、原告に相当期間明渡の猶予を求め得る権利を容認せらるべきである。その猶予期間は住宅事情が調停成立当時のそれに回復するまでの見込期間を基準として定めるのが相当であり、少くともその回復に十年を要し、昭和三十一年三月九日まで明渡の猶予を求め得るから、右期限が到來するまで本件債務名義に基く強制執行は排除せらるべきである」、と主張した。

(判斷)

判決は事情変更による調停調書内容の修正をつぎの限度において認めた。即ち

「調停は判決と異り当事者の合意を基礎とするものであつて、前示調停条項によれば、それは一面に於て昭和二十一年三月九日限り家屋を明渡すという明渡の合意がなされたものでもあるから、此の意思表示が爲された当時に於ける環境とその効果が実現される時に於ける環境との間に、当事者が予測し得なかつた重大な変更があつた場合には事情変更の原則の適用によつて、その合意の効果を客観的に妥当なものに修正し得べきものであり、而して本件調停が成立した昭和十九年四月十三日当時の住宅事情と明渡の実現を約した昭和二十一年三月九日当時の住宅事情との間には予測し得なかつた重大な変更があることは顯著な事実であるから、以上の意味において原告がその明渡期限を更に延長さるべきであると主張するのは正当である。

よつて、其の明渡期限延期の点について勘案するに、原告が「現時の住宅事情が本件調停成立当時それ迄に回復する見込期間を基準とすべきである」と主張するのは一面に於て正当である。然しながら、「事情変更の原則によつて合意の効果を客観的に妥当なものに修正する」と謂うのは唯に客観的標準のみに基いて合理的に判断するということではなくて、各当事者が合意を爲すに至つた主観的事情と外部の客観的環境の変化を突き合わして客観的に妥当な判断を加えることであると解する。

今本件について見るに、原告と(脱退)被告間の当初の賃貸借契約が既に家屋又は敷地が他に売却される迄との期限がついていたのであり、その後(脱退)被告からの明渡要求によつて調停を重ね最後の本件調停に於ては最早これ以上明渡延期の申出はしないと迄約したことが看取され、然もその後家屋の所有権が移転した等の事情が存するのであつて、住宅事情は未だ本件調停成立当時の状態にまで回復されてはいないものの調停条項に定めた明渡期限たる昭和二十一年三月九日当時の世情に比すれば人心も次第に安定の方向をたどつて來たものであるから、之等の諸点を考慮するときは、明渡期限を調停成立の時から五年と修正するを以つて十分に客観的妥当性を具備するものと謂い得る。

然らば、原告の事情変更による明渡期限延長の主張は昭和二十四年三月九日迄を限度として容認せらるべく、本件口頭弁論終結時たる昭和二十六年九月二十九日に於ては既に右延期の期限外にあるから、原告の主張は結局理由がない。」

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